大学院に行った方がいいですか?に対するアンサー

大学院に行ったほうがいいですか?

就活系のイベントで登壇すると必ずと言っていいほど「大学院って行ったほうがいいんですか?」と聞かれます。「自分自身が行きたいと思ったら行けばいいし、不要だと思うなら行かないでいいのでは」が回答なのですが、そういえば自分も大学入学前には似たような悩み事をしていたなぁ、いろんな立場の方々に聞いて回ったな、と思ったので自分が確かに実感できたメリットをまとめてみます。

ある分野に関心を寄せ、関連研究をサーベイして自分の中で体系化し、その中からまだ発掘されていない鉱山を見つけ、実際に掘ってみて、出てきたお宝を評価し、分野外の人にも分かりやすいよう報告する一連の流れを身につけることができます。IFの高いジャーナルや著名な学会に通ったとかそういう結果は二の次で(もちろんあればいいですが)、その後に研究を続ける続けないに関わらず、この能力を身に付けることができたのは財産です。例えば学部1年生から指導教官の元で研究をしているようであれば問題ないと思いますが、多くの大学生が研究する期間である1年では不十分だと感じます。

  • 一次文献を読む能力とその大切さを身に付けた

SNS上で見かける陰謀論者が想像以上に多く存在することにげんなりするこの頃ですが、自分自身がメディアに出たりSNSでバズる中で、情報というものは2次3次と誰かに伝わっていくたびに歪曲し、どれだけメディアが恣意的な発信をしないよう心がけたとしても意図しないものに変化する生き物であると感じました。例えば、自分のサービスや研究がメディアに取り上げられるとき、一定の制限やトレードオフがあるにも関わらず、露出する際はメリットばかり強調して伝えられます。メディアが視聴者の興味を引きつけPVを稼ぐように設計されていることを考慮すると当然のことで悪いこととは思いません。一方で、メディアが発信する情報に最初から間違いが含まれることもあります。ここ最近で最もげんなりしたものは、「NFTはAIが作ったディープフェイクを見破れる!」という紹介がニュース番組でなされていたときでした。

大学院で求められることは論文を読むこと、つまり一次情報に触れることです。論文を読む能力は多少の訓練が必要であり、それが必須である環境に身を置くことで一次情報にアクセスできる力を身につけることができます。これは自分の分野外で特に有効で、判断が難しい社会的なIssue(疫病、戦争、エネルギー問題など)に直面し意見を考える必要のあるときに大いに役立っています。

  • 最前線の研究者との議論できた

指導教官、共同研究室の学生、あるいは外部の共同研究者や学会で会った方々など、最前線の研究者の方々と毎日議論を重ねることができたのは大きな福利厚生だなと思います。これも専門分野に限った話ではありません。ラボ生活内では研究の話と直接関係のない新規サービスの議論もよくで行っていましたが、やはり博士号持ちや博士課程の先輩方からのアドバイスは聡明で貴重でした。一定、生存者バイアスが働いているのはあるでしょうが、やはり日頃から論理的な議論を積み重ねてきた方々とお話させて頂けることは刺激になります。

このようにメリットを上げてみると共通項が見えます。それは、大学院できちんと研究をするということは、その分野のスペシャリストになれるという点だけでなく、分野外にも応用できるジェネラルな能力が身につくのだということです。

最後に

ここで勘違いしてはいけないことは、大学院に行くことで得られる経験と、就活をする上で有利になるかどうかを混同してはいけないことです。大学院に行くことで得られる経験は、述べてきたように人生を生きていく上で重要なものも含まれるでしょうから、それを得た人間が就活において高く評価されるのは当然です。しかし、大学院に行かなくても就活上での適切な能力を備えている人はいますし、反対に大学院に行ったからといって真摯に取り組まなければ無駄に2年分歳をとった新卒ができあがるだけです。繰り返しますが、「自分自身が行きたいと思ったら行けばいいし、不要だと思うなら行かないでいい」がアンサーです。