就活と進学をした高専生の話

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はじめに

2015年の11月から2016年の7月にかけて行った就職活動と進学活動は第一志望の筑波大学に合格という形で終わることができました。この記事は就職と進学で悩む高専生のために、就活と進学活動の両方をこなした私が感じたことを伝えるために書いたものです。また、私が将来就職活動をする上で当時の気持ちをできるだけ鮮明に思い出すためのものでもあります。長い記事になると思いますので、コーヒーでも飲みながらゆっくり読んで頂けると幸いです。

結果

就職活動
・某ポータルサイトの運営やオークションサイトなどを手掛けるIT企業(A社と呼ぶことにします)
内々定のオファーを辞退
進学活動
高専専攻科 合格
筑波大学情報学群メディア創成学類 合格

就活・進学活動をする前

私は中学生の頃から「高専卒業後に編入して大学に行きたい」と漠然と考えていました。高専に入ってからは本格的にプログラミングを始め、1〜3年生まで挫折と成功を繰り返しながら作品を作ったり、コンテストなどに出場していました。4年生となった私は「今までの成功・挫折の経験をすべて反映させ、高専の集大成として作品を完成させる」ことを自己テーマにおいて活動をしました。その結果、高専プログラミングコンテスト高専プロコン26に参加してきた話)と高専祭メイン企画(Unityでプロジェクションマッピングをした話)で制作した作品は自分にとっては思い残すことのないものとなりました。
さて、4年生の活動にそれまでの全てを注ぎ込み、満足してしまった私は「これ以上学生でいる意味はあるのか?」と疑問を抱きます。私は学校の教育は自分の能力を直接伸ばしてくれないと思っていましたし、自分の技術を伸ばしたいのであれば就職して手を動かしながらコードを書いたほうが良いのではないかと考えていました。
この時点で2015年11月。TOEICのスコアは400ちょっと。周りの受験生は本格的に勉強を始める頃です。編入試験に対してモチベーションを持てない私は周りの受験生を見て、受験に対する覚悟の無さと劣等感を強く抱きました。

逆求人への参加

2015年12月。以前よりご縁のあった逆求人お姉さんに逆求人に出てみないかと声をかけて頂きました。私は企業の方々とお話し、実際の職場や社会のことを知れば、大学に対するモチベーションを作れるかもしれない、あるいはそのまま就職しても良いのかもしれないという思いと、逆求人そのものに興味があったので参加させて頂くことにしました。
実際に逆求人に参加したときの様子です。この記事には書きませんでしたが、私は全参加者の中で総合評価1位を頂き、企業の中でも一番の大手だった2社にNo.1学生の評価を頂きました。私は自分のしてきたことが高専という身内のコミュニティではなく広い社会に評価されたこと、自分自身を高く評価して頂いたことに、今までやってきたことは間違いではなかったと気付かされます。同時に、逆求人で面談した会社に深く興味を持ち、採用試験を受けようと決めました。

就活をした

2016年1月となり、私は進学への思いと就職への思いを抱えたまま、A社の採用試験を受けることにしました。A社は誰もが一度は使ったことがあるようなポータルサイトやオークションサイトなどを手掛ける大手IT企業でした。この時点では受かるなんて一つも思ってなくて、「受けるだけ受けてみようかなー。もし駄目でも就活っていう経験が得られたらそれでいいかな」という心持ちでした。
同時に受験勉強を進め、毎日欠かさずCNN Student Newsを見てリスニングをしたり、TOEICの対策をしていました。採用試験を受ける際に夜行バスを利用しましたが、その時も車内で受験勉強をしていた記憶があります。

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夜行バスに乗って東京から山口の学校まで直接登校することも何度かありました

さてこの頃、12月に受けたTOEIC IPテストの結果が返ってきました。スコアは500後半でした。編入試験のためには最終的には700点必要だったので、私のスコアはまだまだ遠いです。一方、同じ大学の志望者はみんな600点を記録し、中には700点を取る人さえいました。私の中の劣等感は更に膨らみ、気持ちは就職に傾くばかりでした。
ここで、A社のエントリーシート調査と1次面接を通過し、2次面接に進みます。この時点ではまだ軽い気持ちでしたが、なんとか2次面接を通過し、3次面接の案内がきたときは先が全く見えない真っ暗なトンネルを進んでいるような感覚に陥り初めて就活に対して辛い気持ちを抱きました。なるほど、みんなこれを通っていくのかぁ、と思いました。
2月。この頃は英語を勉強するのが楽しくて楽しくてしょうがない時期でした。覚えた英単語は武器になり、R&Lは自分のスキルに直接繋がっているという感覚が勉強意欲を高めてくれました。そのおかげか、TOEICのスコアは600点中盤に乗り、編入試験にやっと通用するレベルとなっていました。
そんな中、A社の3次面接通過のお知らせと、4次面接(面談)の案内がきました。

内々定のオファーを頂いた

4次面接(面談)で人事の方に「○○君と一緒に働きたいです。弊社に入って頂けませんか」と言われました。内々定にたどり着いたことよりも「○○君と一緒に働きたい」という言葉がとても嬉しく感じました。私は「一度、家族や研究室の先生に報告させて頂いてから返事をさせて頂きます」と返し、通話を終えました。担任の先生、研究室の先生に報告したとき、先生方は私が進学も志望していることを承知していた上で、私の意思を尊重すると言ってくださいました。
そして、まさか受かるとは思っていなかったA社から内々定のオファーを頂くことで、いよいよ就職か進学か、自分の気持ちに向き合わなくてはならなくなったのです。

自分の気持ちに向き合う

私は、私が何をしたいのかということを真剣に考えました。その中で分かったことは
・私はものづくりが好きだ。でも、ものづくり自体以上に作ったものをユーザーさんに触ってもらって、ユーザーさんが喜んでくれたり感動をしてくれたり感想を言ってくれるのを自分の五感で受け止めことが好きだということ。ときにはアイディアごと否定されることもあるけど、その悔しさをバネにしてもっと良いものを作りたいと思える人種であること。

・私はエンジニアだ。でも、コンピュータとではなくとコミュニケーションを取りながら仕事をしたい。なので研究職に就こうとは思わない。今まで磨いてきたプレゼンの技術や対人スキル、マネジメントスキルを活かせる仕事がしたい。

ということでした。

進学か、就職か

A社は一般の人でも広く利用されているような有名なサービスをいくつも手がけていましたし、「成果物を直接ユーザーさんに使ってもらえるような仕事をしたい」自分にとっては非の打ち所がないほどやりたい仕事とマッチしていました。しかも、進学の道を選ぶ場合、必ず大学に受かるという保証は1つもありません。今から死ぬほど頑張らないとならないはずで、就活よりも遥かに辛い思いをするでしょう。どう考えても就職した方が楽ですし、安全です。何度も理論的に考え、自分を納得させようとしました。周りから進路についてブレブレなことを指摘されていましたし、私は二兎追う性格だと自覚をしているのでこれではいけないと思い、就職しようと思いました。そして周りに「就職することに決めました」と報告しました。家族や友人に周知してしまえば、自分の気持ちも固まると思ったのです。

周りに就職することを報告してしばらくした後、私はふと「大学に行きたかったなぁ...」と思いました。その自分の言葉に対して疑問を抱きました。「なぜ過去形なのだろう。今からでも間に合うのではないか。やはり私が本当にしたいことは大学に行くことなのではないか」。居ても立っても居られなくなった私はすぐさまPCを立ち上げ、A社の担当の人事の方にメールをしました。人事の方はメールに返信をくださり、もう一度面談をすることになりました。私は面談で、正直に今の気持ちを伝えました。端からみれば、内々定を頂いているのにも関わらず、他の企業に行くのでもなくて、大学に行きたいと訳の分からないワガママを言っている学生に対して、人事の方は丁寧に、真剣に私の思いを受け止め相談に乗ってくださいました。そして、急がなくても良いからと結論は先延ばしにして頂くことになりました。

周りの人にも相談してみる

家族や学校の先生、友人をはじめとしてたくさんの人に相談をしました。そのときに、大学に行っていない人(友人などの同世代)は「就職した方が良いよ」と言い、大学に行ったことのある人(家族や学校の先生などの大人)は「進学した方がいいよ」と言う人が多かったです。この明らかな差は面白いなと思いました。
さて、私は早く学生を卒業して社会人になり、親元から独立して両親を安心させたい、楽にさせたいという気持ちがありました。ところが、内々定のオファーを頂いたあとに両親とよくよく話していると、もう少しだけ親に甘えられる状況だということも分かりました。このとき親を心の底から尊敬し、何も考えずに勉強をさせて貰えていることに感謝しました。

今しかできないこと

後になって気付いたことですが、私がここまで悩んだのは「進学も就職もどっちもしたい」という本音があったからでした。そんな中で就職の切符(それもファーストクラスのやつ)を入手してしまい、後は列車に乗るだけというややこしい状態になってしまいます。就職を選ぶと、進学は捨てなければなりません。でも、進学を選んだら就職のチャンスは残ります。両方したいならとりあえず進学だ!と言ってしまいたいところですが、私は学校での授業が直接自分のスキルに結びつかないという感覚を高専で覚えてしまったので、意味が無いのではとも考えていました。その板挟みでどちらにも踏ん切りが付けずにいたのです。
自分と向き合う中で、最後に進学に後押しした気持ちが「社会に出て役に立つかどうかは関係なく、少しでも勉強意欲の残っている今のうちは勉強をしておきたい」でした。自分と同世代を比べると、自分はプログラムが書ける方だと思っています。なので焦って就職してプログラムを書く必要もないのではないか、それよりも就職してからでは学べない(学びづらい)ようなものをゆっくり学んでも良いのではないか、と思いました。ふつうの大学生が22歳で就職するんだから、19歳の私はもう数年間、形や枠に囚われず自由に学んだほうが結果的に良いエンジニアとしての良いキャリアを築けるのではないかと考えました。大学で学ぶというのは授業に限りません。新天地での生活の中で、新しい人間と交流することで得られるものはきっと大きいはずです。A社には、一度入社して数年働けば大学に入りなおすことができる制度(ホワイト具合が伺える)もありましたが、私は感性豊かな若いうちに大学に行くことが大切だと思いました。

学生を続けたい他の理由として

関東で学生をしたい
・関東で就活をしたい
・学生として海外に行きたい(留学, 学会)
学生として高専生以外の人達と接したい
・学生コンテストに出たい
・いろいろな会社にインターンに行きたい
・逆求人にあと2回はでたい
いずれも残りの高専生活の中では得られないもので、就職すると人生で二度とできないことです。よく考えると、学生のうちにやり切れてないことがたくさんありました。それらを残したままにすると、絶対に一生後悔すると思いました。

進学に切り替える

3月。一度就職しようと決めた時期にコンピュータフェスティバルに作品を出すことに決め、書類を提出していました。改めて進学に切り替えたわけですが、自分でやると言い出したことで同じチームのメンバーに迷惑をかけたくなかったので、開発は継続しました。昼間は自分の勉強をし、夕方から深夜までは通話をしながら開発をしました。メリハリをつけてやってたつもりですが、どっちもぐだってしまうこともあったし、コンテスト前の一週間は追い込まれました。迷惑をかけたくなかったとか言いつつ、開発メンバーにはたくさん迷惑をかけましたが、最後まで一緒に頑張ってくれて、進学の方でも支えてくれました。

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結果的にコンピュータフェスティバルはメディア部門で2年振り、 ソフトウェア部門も合わせれば3年連続の優勝を勝ち取りました。

3月の末のTOEIC SPでは690点までスコアを伸ばしました。

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1日/1週間/1ヶ月ごとに目標を立て、毎日記録しながら目標を修正しました

仲間ができる

4月。春休みが明け、5年生が始まりました。学年が変わると寮の部屋割りも変わりますが、私達の学年は予め「進学組は3階に、就職組は4階に固めよう」と話をしていました。私は3階に部屋を配置してもらっていました。寮に帰ったその日に、私は同じ3階の受験生に「俺ら、『食堂で一緒に勉強する同盟』を組んでいるんだけど、お前も一緒に勉強をしない?」と声をかけられました。私はぜひと了承して、同盟(?)に加わりました。その日から、起床時間前に起こし合い、他の寮生が朝ご飯を食べている横で勉強をし、放課後はまた集まって消灯時間まで食堂で勉強をするのが日課になりました。
今まで同じ受験生の中で劣等感を抱き続け、このまま受験勉強を続けても落ちるだろうと思っていた私でしたが、受験生仲間にも加えてもらい、やっと心の底から気持ち良く勉強をすることができました。そして、4月最初のTOEICでは目標であった730点を大きく越える815点を記録しました。この数字は同じ大学の志望者の中で一番高い数字となりました。

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食堂での勉強(写真は受験前最後の週末)

一方、数学については悲惨でした。中学から高校まで私の成績は数学がずっと足を引っ張っている状態でした。受験生どころか、一般の高専生に比べても数学ができず、微積分では「なんで増減表を書くときにy'=0になるの?」って質問して呆れられましたし、線形代数に至っては行基本変形すらままならない感じでした。同じ研究室の先輩や同級生、寮生の受験生に一から叩き込んでもらいました。

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4月に消費した用紙とボールペン(左)

身体(精神)を壊す

5月。数学中毒になりました。平日は4~7時間、休日は8時間以上ひたすら数学をしていました。夢の中で数学をしていることも少なくありませんでした。数学をしていると気分が落ち着きました。数学ができない日はイライラしました。周りの人には迷惑をかけていたと思います。 そんなことをしているうちに胃腸炎にかかりました。プロコンや高専祭が終わった後の12月に初めて胃腸炎にかかり、就職と進学で悩んでいた2月にも胃腸炎にかかっていましたが、今回のは症状がひどく病院に行ったところそのまま入院になってしまいました。今までの経験から体調管理と精神管理には十分気を付けていたつもりで、絶対に睡眠時間を削ることなくやっていましたが、自分の気がつかないところでガタが来ていました。退院後はより一層体調管理に気をつけるようになりました。

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5月に消費した用紙とボールペン

内々定を辞退する

5月終盤。A社の内々定を正式に辞退させて頂きました。本当なら5月に入ってすぐにお伝えする予定でしたが、合間に入院が挟まってしまいこのタイミングとなりました。最後まで親身になって相談に乗って下さったA社の人事の方には心より感謝しています。

つらい

6月。精神の安定しない日が続きました。同じ寮生同士で励まし合えたのが何より大きかったと思います。勉強以外にもご飯に入ったり風呂に入ったりするタイミングも一緒なことが多かったのでお互いの進捗具合やこれからの勉強予定、大学に入ったら何がしたいかなど他愛もない話をして気を紛らわせることができました。食堂で勉強しているうちに食堂のおばちゃんと仲良くなり、いつも気にして声をかけてくださいました。

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バイト先の方々には就活のときからずっと応援して頂きました

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6月に消費した用紙とボールペン

7月。受験前日に筑波大学に編入した先輩にご飯に連れて行ってもらいました。すごく勇気が出ました。

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7月に消費した用紙とボールペン

合格した

結果的に、志望校であった筑波大学に合格しました。

就活をして良かったこと

・自分の市場価値の再確認
思ってるより、自分は高く評価されてる。でも、大学に行くなら次に就活するまでにさらにレベルアップしないといけない!
・進学に対する思いの再認識
就活を通じて本気で進学しようと思ったので、就活をしなかったら最後までモチベーションを保てず良い結果がでなかったと思う
・まだ学生なのに一度就活をしたという経験を得た
次に就活するときに、今回の経験が活かせるはず!

受験勉強をして良かったこと

・数学に対する苦手意識の改善
プログラマにとって数学が必要かと言われたら必ずしもいるとは限らないというのが私の持論です。これは受験前から思っていましたし、死ぬ気で数学をした後でも変わりませんでした。研究職なら必須なんでしょうけど、私は研究職に行こうと思いませんし。それでも高専に通ったのだから最低でも高校数学・大学1年生レベルの数学はマスターしたいと思っていました。受験を通して数学に対する苦手意識はほぼ治り、今では積極的に数学を勉強したいと思うようになりました。

・TOEIC800点超え
おそらく自分を追い込んで本気でやらないと取れないスコアだったと思います。2016年5月に新形式に変わってからは受験していないので、在学中に受けようと思っています。

アルゴリズムとデータ構造をもう一度きちんと勉強できた
受験科目に「情報」があったので、過去問を中心に勉強しました。一番、自分のスキルに直結する科目です。授業で扱わなかったアルゴリズムを含めてきちんと勉強しなおし、やんわりとした理解じゃなくて、他人に自分の言葉で説明できるまで落とし込めたのは良かったと思います。

・死ぬほど努力する経験を得た もうしたくないけど。

感謝の気持ち

記事の中に書いているように、この半年間は人生で一番たくさんの人に迷惑をかけて、たくさんの人に支えて貰いました。皆さんの支えがなければ自分が納得する結論を出せなかったし、途中で挫折していたと思います。受験本番のときは何よりも支えてくれた方々のために合格をしたいという気持ちが強かったです。本当にありがとうございました。

あとがき

結果的に志望校に受かったから良かったものの、進学と就職のどちらが正しかったのかなぁと考えてしまうことがあります。進学/就職活動を始める前から予想がつかなかったし(だからこそ悩んだ)、無事進路が決まった今でも正直分かりません。もう一度就活をしないといけないのかと思うとちょっと嫌になるし、就職をやめたことへの後悔が一切ないかと言われるとないとキッパリは言えないかもしれません。でも、先に就職が決まった時に「進学しないと、一生後悔する」って強く思ったのは覚えています。私は、最後はその気持ちを信じて、自分に素直になって進路を選ぶことにしました。就職しちゃえば、それで楽だったんだろうけど。

最後に、10年立ってあのときの選択は間違いじゃなかったと胸を張って言えるように、自分が自分で選んだ道を正しくしていきたいと思います。